銭湯について
いい夜だ、昼間に堆積した疲れがゆっくりと湯に溶け出して行く。今浸かっているお湯は少し温度低め、体温に近い温度で湯船全体に体が伸びて広がる感覚になる。胸から上だけ湯船から出ている、まだ少し寒い春の朧月夜。素敵な夜だ。
稽古終わりにラーメンを食べた。芝居の話に花を咲かせ、お腹もいっぱいになった頃。少し前にリニューアルオープンした銭湯の話になった。同級生の彼曰く、僕が以前行った時と趣の違う感じらしい。そういう経緯で今僕たちは湯船に浸かり、疲れを溶かしている。
「これ。あのアイス揚げたやつたまにあるやん?」
と、同級生の彼が言う
「ああ、揚げアイスね。」
「そうそう、あれみたいじゃない?冷たいけど暖かい。」
「僕はあれみたいに思いますねえ。」
後輩の彼が言う。
「夏の夜にクーラーの効いた部屋で、布団に入ってる感じ。体は少し冷えてるんだけど布団は暖かい。」
「ああ。わかる。」
2人とも納得する。僕は思い出す。
「逆に俺は冬の日のお風呂上がりに布団に入った時の感じかも、体はポカポカしてるけど布団は冷たい。足先に当たるあの冷たさってよくない?」
「それいいね。」
2人とも納得してくれた。
あゝなんて他愛のない会話。こう言う話が自然に出来る風呂は偉大だ。
溶け出した疲れの代わりに、暖かさが心に染みる。見上げるとお月様が、風呂の湯気で余計に朧げになっている。
いやあ、のぼせそうだ。浸かりすぎてしまったかもしれない。