じっと手を見る

毎日に気づきと発見を 日記っぽいエッセイ

午前7時30分の坂道について

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 午前7時30は、僕がいつも坂道を登る時間。僕はこの日常が気に入っている。今日は天気がいい。

 

 この坂道は駅へと続いている長い坂道で、僕は家を出るのがいつもギリギリだから自転車を立ち漕ぎして一気に登っている。ペダルを踏むたびごとに膝の筋肉が重たくなってくる、その登っている感覚が結構好きだったりする。

 

 今日も坂道を登る。坂道の下で登って行く先を見つめて、よしっ!と意気込む。最初の一歩で重みを感じ、今日は一気に登りきれるかどうか両足に伺いを立てる、

 

「ギリ行ける」

 

今日はギリ行けるらしい。

 

 少し登るとバス停がある。大抵人はいない。一人か二人いることもあるが、それもあまり無い。前に五、六人並んでた時は、驚いて二度見してしまい、側溝に落ちそうになった。

 

 そのその少し先の交差点では、緑のタスキをかけ旗を片手に持ったお揃いの格好て、近所のおじさんやおばさんが坂の途中の横断歩道に立っている。この交差点は確かに危険だ。見通しが悪いし、一旦停止で止まる車なんかほとんど見たことがない。僕もいつかはあんな風に横断歩道に立って小学生達を学校へ見送るかな。

 

 その日常を想像してクスッとした。その頃にはこの坂道を自転車で登り切るなんてことはできないかも知れない。

 

 坂道もあと少し、この「あと少し」と思ったところからがしんどくなる。僕の前を大学生らしい女の子が歩いている。後方の車を確認し車道側に膨らんで抜かそうとする。すると彼女は急に走りだした。確かに徒歩だと電車までギリギリの時間だ、ということは同じ電車に乗るんだろうか?

 

 肩まで伸びた茶色のウェーブがかった髪と、朝の光に鮮やかに浮かぶすみれ色のスカートが、彼女が風を切って走るたびヒラヒラと揺れている。負けじとペダルを踏み込むと、簡単に追い抜いた。でも、スピードでは優っていても彼女程の疾走感と清々しさは僕にはなかった。

 

 きっと彼女はそれどころではなかっただろうけど…

 

 といったところで、坂を登り切った。少し息が切れた、ギリ行けると言っていた両足は大して疲れていないみたいだ。心地いい疲労感。

 

「今日もきっと満員電車だろうな…」

 

「ふうっ」と溜め息を吐いて、僕は引き続き駅へ向かう。

 

 やっぱり僕はこの日常が気に入っている。