じっと手を見る

毎日に気づきと発見を 日記っぽいエッセイ

旅の思い出について

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 僕の家はあまり旅行をする家ではなかった。まあ僕が、極端に休みの少ない吹奏楽部に入ったからってのはあるのだけれど。中学校の時なんか、休みは年に10日あるかないかくらいだった。

 

 旅行の回数は少ないが吹奏楽をやっていたおかげで、うんと遠出できたことがある。

 

 高校二年生。もうすぐ、三年生になろうかと言うころだったので三月だったと思う。僕の人生の中での一大イベント「ヨーロッパ研修旅行」があった。

 

 フランス、ドイツ、オーストリアを回る一週間。高校二年生には贅沢過ぎるような旅だったが、僕が得たものは金額を大いに上回った。

 

 まず海外旅行が初めてだった僕は、本当にドキドキして前日はほとんど眠れなかった。そのおかげで時差がうまいこと調整されたのは、不幸中の幸いだろう。日本からフランスまで続くユーラシア大陸、冬の針葉樹の森を見下ろしながら腕時計をフランス時間に合わせた時、やっと海外へ行く実感がわいた。

 

 日本はそのころまだ寒かったので防寒着をしっかりと詰めていったが、降り立ったフランスは暑いくらいの日差しだった。時差がある割にパッチリ目覚めた僕は、仲間たちとフランスの豪華な、といっても日本のホテルと同じようなものだったが、何倍にも増して美味しそうに見える朝食を食べてもうすでに大満足だった。

 

 エッフェル塔凱旋門ルーブル美術館オペラ座で観たオペレッタシャンゼリゼ通り、セーヌ川ノートルダム大聖堂バラ窓、ヴェルサイユ宮殿、毎食出て来た酢キャベツ。

 

 感受性の許容量すりきりいっぱいまで、いろんなものを吸い込んだ。そうして入りきらなかった分の感動が、時たまため息になって漏れ出た。

 

 ここまででまだフランスか。

 

 夜ホテル部屋で友と語り合う、そうまだまだ旅は続く。普段一緒に音楽を紡いでいる仲間たちと、ましてや同じ寮で暮らしている友とこんな遠くまで来てしまった。なんて幸せなのだろうか。そう思いながら、毎晩眠りについた。

 

 そしてドイツ。

 

 パリかドイツへの飛行機に雷が落ちるなどトラブルはあったが無事にドイツの土を踏むことができた。雷ってすぐ近くで見ると緑色に光ってるんだよ。すごく綺麗な色だった。怖かったけど。

 

 ドイツはフランスより寒かった、澄んだ冷たい空気、日本よりも深い香りがした。

 

 美味しい食事、フランスより口にあった。白鳥城、ノイシュバンシュタイン城。コンビニに置いてある大量のハリボー。美味しそうなビール、もちろん当時の僕は飲んではいない。アウトバーン、6輪もある巨大なバスが時速100キロを越えて走っている。そんなバスでも追い抜かされるんだから、とんでもない道路である。

 

 そして陸路で、オーストリアへ。バスの中から観たアルプスの山々の素晴らしさ。幻じゃないかと思うほど美しかった。

 

 ザルツブルク。ミラベル庭園、映画「サウンドオブミュージック」でドレミの歌歌ってたところ。モーツァルトの生家、そしてその家の前でみんなで歌ったモーツァルトのアヴェベルムコルプス。知らない外国人達から僕達に送られた、拍手。いつだって拍手をもらえるのは嬉しい。ハルシュタットの湖の空気、景色。死ぬならここで死にたいと思ったほど。ウイーン、シェーンブルン宮殿。宮殿内のサロンで観たコンサート、素敵だった。

 

 旅の終わりの、清々しい寂しさ。

 

 そんなこんなで日本に帰って来た。肌に馴染んだ空気、匂い。安心して帰りのバスは爆睡。

 

 なんて素敵な思い出だろう。時々思い出す。

 

 また、行ってみたいな。昔の僕より今の僕はなにか感じられるだろうか?