夜の赤信号について
深夜。0時30分。
毎朝職場に向かう坂道を、今は自転車を押しながらだらだらとくだる。自転車に僕の体が引きずられてるのかもしれない。キリキリなる自転車のタイヤの音がこの住宅街で僕の耳に届く。
「赤だ」
信号を見て思った。いつもより赤い。気がした。
朝の光でしか見ることのない信号を、暗い中でまじまじと見るのは不思議な感じ。
きっと「見えているもの」と、「見ているもの」は違う。
いつもより赤い信号。いつもより明るい街灯。街の灯りに消え入りそうな星。遠くに見える家々の灯り。
僕は今、「見ている」。見えているだけじゃ分からないことってすごく多いんだ。
キリキリなる自転車。川向こうから聞こえるバイクのエンジン音。後ろからやってるトラック。
「聴いて」みた。
気づいてしまえば簡単だ。日常の中に埋もれている音を、草をかき分けるように聴き探す。
見えるもの、聴こえるものを探しながら帰った。
世界はいつもより賑やかで、でも騒がしかった。僕は疲れているんだ、静かにしようか。
静寂を「聴いて」みようかしら。
息を吸う、上を向く。
僕は空に浮かぶ大きな静寂を見た。