疲れについて
「…この電車はこの駅で回送電車となります…」
「 回送されてたまるか!」無理やり目を開ける。目の周りの筋肉がよいしょっとまぶたを引き上げ、できるだけの脳みそを使わないようにのそっと立ち上がった。
駅のホームの階段を上りながら足の裏に圧縮された何かを感じる。
疲れだ。
僕は足の裏には疲れセンサーが標準装備されている。こいつがいつも最初に鳴り出す。
階段を登りきると、どこかのワッフルの甘い匂いが漂っていて、人知れず深呼吸した。いい匂いだけど、なんだか悔しい。胸いっぱいに甘い匂いを吸い込み改札を出る。
センサーは一歩一歩疲れを感知していたけれど、人の流れがあるおかげで立ち止まらず歩けた。その時歩いていたのは僕という個人ではなく、人間という動物だったのだろう。自然の流れの中では、逆らえば苦、従えば楽。僕は歩いたのではなく流れたのだ。
日の当たるところにでると、傾いた太陽が真っ赤になっている。地面に伸びた影はいつもより濃い気がした。彼も僕と同様に疲れているのだろう。
結局甘い匂いが忘れられず、コンビニアイスを買って食べてしまった。冷たさと甘さが沁みる。少しだけセンサーが反応を弱めたところで、すかさず次の電車へ。
自宅まで約1時間。うーん。今日はもうセンサーオフにしたい。