僕と世界のスピードについて
目の前に開いた文庫本の上を目線が滑り、視界が窓へと移る。右から左へと景色は流れ、飛び去って行く。
僕が景色を切り取り感じるスピードと、この電車が進むスピードどちらが早いのだろう。
そう考えて少し寂しくなった。心は置いていかれている気がする、さっき通り過ぎたところに。
今を追いかけるのはそんなに簡単じゃない。文庫本を閉じ、目の前の今を見ようと決めた。「よし。」意気込んだその時、電車はトンネルの中へ。景色は真っ黒に、目の前に映っているのは驚いた僕の顔。思ったよりおかしかったそのビックリ顔に僕は少し微笑んだ。
少しの落胆と寂しさが、僕を笑顔にすることもある。